「これからのメディアはこうなる!」系の議論は、机上の空論になりがちで、地に足のついたものが少ないのですが、この本は良書だと思いました。

フィナンシャル・タイムズの実力
小林 恭子
洋泉社
売り上げランキング: 18,295

日経新聞が1600億円で買収した英国の経済専門紙「フィナンシャルタイムズ」。本書では、この「フィナンシャルタイムズ」がどのような新聞なのか、という解説を軸に、メディアのデジタル化、日英のジャーナリズムの違い、今後のメディアの方向性などをバランスよく概観しています。

日英のジャーナリズムの違いが面白い


今回の買収をめぐる注目点の一つとして、「フィナンシャルタイムズ」が編集権の独立を保つことができるのか、というものがあります。

この問題意識を説明するため、著者である小林さんは英国におけるジャーナリズムの事例を数多く紹介してくれます。正直僕の感覚からすると驚いてしまうようなものも多いのですが、ぶっ飛んでて面白いんですよね。
2002年、BBCはその後、警視庁で人種差別主義が消えたかどうかをリポートするため、マーク・デイリー記者を警視庁に警察官として就職させた。翌年から、デイリー記者は警察官になるための研修に参加した。

P92

ハリーポッターシリーズで知られる作家J・K・ローリングは取材攻勢の激しさに何度も引っ越しをしたこと、取材を依頼する手紙が自分の子供の通学用バッグに入っていたことの衝撃について話した。

P97~98

英国でニュース番組のインタビューの様子を見たり、聞いたりしていると、日本的な感覚では「それはちょっと失礼ではないか」と思う場面に出くわす。しかし、よほどでない限り、英ジャーナリズムの現場ではそのような懸念をする必要はない。ジャーナリストは「聞いてなんぼ」であり、聞かれるほうもそれを認識している。

P104

メディア界における世界的潮流もよくわかる



もう一つ、本書が素晴らしいのデジタル化に取り組む世界の様々なメディアの取り組みを概観できるところです。

現在、メディアは転換点にあります。インターネットの発達により、従来のビジネスモデルからの転換を迫られ、そのために様々な施策を打っています。具体的には、テクノロジーへの投資、新たな読者の開発、記事の個別販売(アンバンドル化)、読者とのエンゲージメントの強化…などなど。

本書では、こうした海外のメディアの取り組みを、多少駆け足ではありますが、実際の事例を交えながら紹介。こうした事例紹介も、ともすれば極端に尖った取り組みだけにフォーカスした的外れなものになりがちなのですが、どれも現場で働く僕の問題意識に近いもので、非常にリアリティがありました。

文句なくの良書といえるので、紙、ネットに限らずメディア志望の学生さんなどはぜひ読んでみるべきだと思います。

ちなみに「フィナンシャルタイムズ」については、田端さんの以下のコラムもためになりますよ。

FTの紙はなぜピンク色?-ネットメディアがブランド化するために必要なもの | AdverTimes(アドタイ)FTの紙はなぜピンク色?-ネットメディアがブランド化するために必要なもの | AdverTimes(アドタイ)
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