先日、吉川英治文学新人賞が発表され、藤井太洋さんの「ハロー・ワールド」と並んで、塩田武士さんの「歪んだ波紋」が選出されました。

「歪んだ波紋」は、「誤報」をめぐる短編集で、全体を通して読むと収録されている5つの短編が一本の太い線としてつながっていくという伏線の効いた構成になっています。

ネットメディアやSNSが力を持ち始めた現代のメディア状況やWELQ騒動をモデルにしたと思しき事象なども作中で描かれています。これらの描写はネットニュース編集の現場を経験してきた僕の目から見ても非常にリアルで、作者の確かな筆力を感じました。

今回、受賞したことからもわかるとおり、作品として優れていることは間違いなく、僕自身も興味深く読みました。ネットや紙などの媒体にかかわらず、現在メディアにかかわる人間すべてが読んでおいて、損はない内容だと思います。

しかし、僕がこの作品からもっとも強く感じたのは、作品としての魅力ではありませんでした。この作品の中で、描かれている地方新聞社の「先のなさ」、「その尋常ではない追い詰められ方」に驚かされたのです。

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※以下、多少のネタバレあり。

本作品の一番目に収録されている短編『黒い依頼』の舞台となるのは、関西の地方新聞社 です。本編の主人公である中堅記者は、調査報道を行う社内事業『プロジェクトJ』の担当デスクから、あるひき逃げ事件を取材するように指示されます。

主人公が事件を追いかける過程で折に触れ、地方紙において、「200万」という予算が如何に莫大なものかということが語られます。

年間200万という、新聞の一企画にしては破格の予算が計上されたプロジェクト。

「社会部長だけじゃなくて、編集局長からも発破を掛けられてな。県内部数が二位になったら、広告がまずいことになる。さらに底が割れる、と。あと、予算のこともきになってた」

「年間200万の取材費のことですか?」

「労使交渉で、経営側が切り札のように言うてたやろ?組合ニュースであれを読んだとき、ズシッと来たわ」

「地方新聞社が社運をかけて行う調査報道プロジェクトの予算が年間200万」…

作者である塩田さんは元々神戸新聞社の記者でした。塩田さんの記者時代の経験に基づいて、この200万という予算の額が描かれているとしたら、これは非常にリアルな数字ということになります。

この額を皆さんはどう考えるでしょうか?僕ははっきりいってムチャクチャ少ないと思います。200万程度であれば、年間どころか月間の予算として使っているネットメディアは、そこら中にあるでしょう。

『ジャーナリズムが…』『地域の声が…』と叫んでみたところで、そこにさける予算の規模は限界がある。本書全体のテーマである『誤報』の背景には、こうした「かけられる予算の少なさ」という問題もあるのでしょう。

地方新聞社の置かれている苦境を骨の髄まで教えてくれるエピソードでした。

ちなみに、新聞社の苦境については、過去に押し紙について元記者の方にインタビューしたことがありますので。こちらもわりと絶望します。

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