この前、VICE JAPANで凄まじいインタビューを読みまして、直後に本屋で買ったのが、「前略、殺人者たち」でした。

30年間、殺人現場を歩き続けた男。酔いどれ事件記者、小林俊之の真情告白 | VICE JAPAN30年間、殺人現場を歩き続けた男。酔いどれ事件記者、小林俊之の真情告白 | VICE JAPAN

本書の著者である小林さんは、写真週刊誌全盛期のフライデーなどで活躍した事件記者。小林さんの経験の前では、昨今のネットにおける「メディア論」や「ジャーナリズム論」など吹っ飛んでしまいます。そこにあるのは圧倒的なリアル。圧倒的な人間の業。

「大阪教育大付属池田小事件」「秋葉原通り魔事件」「松山ホステス殺人事件」「帝銀事件」などなど。。本書の中では、歴史年鑑や近現代を振り返る報道番組の中で見かけたことがあるような著名な事件の現場で、小林さんが見聞きしたリアルが描かれています。犯人、犯人の親族、遺族といった当事者の証言が、当時の写真などと合わせて紹介されているのです。

悲惨さ、残忍さ、闇の深さに言葉を失う


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どの事件も、犯人の言動や事件が起こした悲劇の重さに暗鬱な気持ちになるのですが、「本庄保険金殺人事件」の容疑者である死刑囚・八木茂(一部では冤罪との声もある)の言動とその周辺の人々の有り様は、本当に表現の仕様がありません。

この事件について、wikipediaには以下のように記述されています。
庄市内で金融業(街金融)を営む主犯が、自身の経営するパブ・スナックのホステスに対して、常連客と偽装結婚のうえ保険金殺人を3度実行させる。第3の事件の被害者が1999年7月に「自分も殺される」とマスコミに告発し、保険金殺人疑惑として報道される。

前年に和歌山毒物カレー事件が発生して1年足らずの状況であったため世間の注目は高く、主犯は疑惑発覚から逮捕までの約8ヶ月間、自分の店を会場に記者1人に対して3000-6000円の入店料を徴収する有料の記者会見を203回実施。自身の潔白を表明するとともに雑談やホステスとのカラオケに興じ、およそ1000万円稼ぐという前代未聞の行動をした。

本庄保険金殺人事件

八木はこうした記者会見を繰り返す中で、「好感度記者ランキング」のベスト10なども発表しているのですが、著者である小林さんは2位にランクインしているほどの密着ぶり。事件に対する注目が頂点にあったときから共に酒を飲み、八木が収監されてからも、度々接見しています。

そして、愛人として八木の子供を出産までしていながら、偽装結婚して生命保険の受取人になっていた女性の様子を以下のように描写しているのです。
言葉の端々から、八木さんに対する未練が感じられた。たとえ自分の人生を台無しにした男であっても、愛した現実は否定したくない。京子は家族にそんな胸のうちを明かしていた

P108


いやいやいやいや!って普通は思ってしまうんですけど、単純にそう割り切れないところに小林さんの言う「人間のおぞましさ、不可思議さ」があるのかもしれません。

また、「記者会見で泣き崩れる加藤智大の母親」や「大量の雑誌、ビデオテープなどが散乱する宮崎勉の部屋」「福田和子が獄中から友人に宛てた手紙」など貴重な写真も掲載されています。

昨今のヌルい"ジャーナリズム論"に食傷気味の皆様にぜひ読んでいただきたい一冊でした。

前略、殺人者たち 週刊誌事件記者の取材ノート
小林 俊之
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