「営業の人間の気持ちがわかる編集者になろう」。これは僕自身が、これまで編集者としてキャリアを積んでくる中で、意識していることです。

編集者にとっての“顧客”はもちろん読者です。でも、直接的に給料を生み出してくれるのは、営業マンが汗水をたらして、クライアントや書店に提案した結果として、もたらされる売上げです。それがなければ、どんなに素晴らしい情報でも、自己満足に過ぎません。だから、僕は営業さんにはいつも感謝していますし、タイアップの相談があれば、例え無駄になろうとも喜んで何枚でも企画書を書きます。そして、それが当たり前だと思ってきました。

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記者の皆さんは、販売現場の実態を知った上で、「ジャーナリズムガー」とか言えるの?


「小説 新聞社販売局」は“小説”という形態はとっているものの、かなりの部分が事実に基づいていると考えられます。そして、それは作者である幸田さんも認めるところです。
新聞社に記者として入社した私は、社内では「編集局育ち」でしたが、販売局に配属されて初めて新聞の販売現場を知って、ものすごく衝撃を受けました。週刊誌からの取材や販売店主に訴えられた裁判など、新聞社の「押し紙」が公の場に出る時、新聞社は「押し紙なんかありません」と言っておきながら、実は相当の量の「押し紙」が存在しているのです。

新聞界を揺るがす告発本『小説 新聞社販売局』~著者・幸田泉氏にインタビュー

僕は「新聞社は社会の木鐸だ」とか「新聞は民主主義のインフラの一つ」だみたいな主張も丸々は受け入れませんが、一理あるとは思います。学生時代は記者に憧れて、大手新聞社を受けましたし、今でも多くの記者の方の見識は素晴らしいと思います。

それでも…

自分たちの高い給料(他の業界と比較して)が、ゆがんだ仕組みによってもたらされていることから、目を逸らして声高に「ジャーナリズム!」を叫ぶ姿には「なんだかなぁ」と思ってしまうのです。

「立て替え」とか最早コンプラ違反とかいうレベルじゃない…


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それにしても、新聞販売の現場というのは小説ということを割り引いたとしても驚くことばかりです。この小説の中には、販売店から新聞社への入金が遅れた場合、販売局の担当員が代わりに新聞代金を社に支払う「立て替え」なんていう場面が出て来ます。それも数百万円単位です。コンプラ違反とかそういうレベルじゃありません。ブラック企業も裸足で逃げ出すレベルです。

会社にとっては送り部数分の入金がちゃんとあるかどうかが重要なんで、その金を振り込んだのが誰かなんて、それこそ誰も気にしてへんわい。お前の口座の入金にしたって同じことだ。センシティブになるな。要するに俺たちは、入金の帳尻を合わせたらいいんだ

この他にも新聞社から販売店に対して納品する「送り部数」に対して実際に配布される「実配」は6〜7割で残りは「残紙」になるなんて描写や、懸賞をエサに無理矢理新聞契約を取ろうとする様子など、非常に生々しく新聞販売の現場が描かれています。

もちろんステマとかPV至上主義とかネットメディアにも山ほど問題はあるでしょう。でも、こうした問題から目を背け続けているかぎり、新聞社だってそれほど大口は叩けないのではないでしょうか。ブラック企業や東芝や旭化成建材を上から目線でぶん殴れるだけの潔白さが新聞社にあるとは思えません。もちろん、不正を指摘する人がすべからく潔白である必要はありませんが、「自らが潔白でない」ことに対してはもう少し批判的であってほしいと思います。

そして、そうあるためにこそ自分たちの給料がどのようにもたらされているか、ということにもっと想像力を働かせるべきなのではないでしょうか。

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とりあえず、新聞社の社員は全員読むべき一冊でしょう。そしてWeb媒体の皆さん、この本を現役あるいはOB記者にレビューさせたら、メッチャバズると思いますよ! (多分ね…)

小説 新聞社販売局
小説 新聞社販売局
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幸田 泉
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