元読売新聞の記者であり、現在はアゴラの編集長、ネット選挙の参謀、企業広報のサポートなどとしてご活躍されている新田哲史さんの処女作を拝読させていただきました。


自分の立場を卑下するわけじゃありませんが、大きなミスをしなければ余裕で年収1000万に届くような大新聞の記者の方が、なぜウェブメディアみたいな修羅の世界に進んで足を踏み入れる必要があるのか、と常々疑問に思っていました。

今回の著書の中では、新田さんが読売新聞をやめて、アゴラの編集長にたどり着くまでの経緯が赤裸々に語られています。版元であるアスペクトのサイトで 一部語られているように、ビジネス感覚の欠如から、新聞社退職後に入社した企業で挫折する様子なども、かなり詳細に描かれます。

この辺りを読んでいると、新聞記者という仕事が如何に特殊な業務かというのがわかりますし、そうした中で新田さんが業界や自身のキャリアに不安を覚えるのも無理からぬことだと感じられます。
30代半ばに辞めた私は珍しいので、実際に現役の記者さんからしばしば転職相談を受けます。しかし、私が「上から目線の言動を改められる自信はあるか?」「エクセルやパワーポイントは使えるか?」「新しいことを柔軟に学ぶ気概はあるか?」と尋ねると、たいていの方は「止めておくよ」と苦笑い。永田町や新聞業界の噂話などの情報交換に話題が戻っていきます。

転職するなら、上から目線じゃないとか学ぶ気概を持つとか当然だと思うんですけどねぇ・・・。ただ、そうしたマインドセットを持ち得ない環境で働いてきた新田さんが、新たなキャリアを開拓していく様子は、本書の読みどころの一つだと思います。

また、新聞出身の方がネットに来ると、「ジャーナリズムガー」とか「これだからウェブメディアは・・・」のように上から目線になりがちなのに対して、マーケティング、ビジネスといった視点を常に意識している点も好感が持てます。

個人的ハイライトはやはりネット選挙の裏側


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ただ、この本で最も面白い、新田さんにしか書けないであろう部分はやはり自らが参謀を務めたネット選挙の裏側です。僕自身の業務が、非常に近しいという理由もあるのですが、2013年7月の参院選の時の描写などは当事者しか知りえないライブ感があり、とても面白いと思いました。

家入陣営に協力した都知事選とあわせて、とても「読ませる」文章に仕上がっていると思います。

僕が編集者として新田さんに書いてもらいたいこと


さてさて、この書籍は書籍として完結しており、面白いのですが、僕が編集者として新田さんに仕事をお願いするならば、「これを書いて欲しい」というアイデアがいくつかあるので、この機会に書いておこうと思います。

1,リアル新聞記者生活


同じようなことを書いている元記者の人はたくさんいるとは思いますが、もっとニッチにリアルな新聞記者の生活を書いてほしいんですよね。

例えば、「どれぐらいハイヤー使うの?」「合コンとかいけるの?」「パワハラとかブラック企業を問題視する記事を書いてるけど、新聞社ってどっちもありそうじゃない?そういうのに矛盾を感じないの?」みたいな、より世俗的だけど読まれるテーマってたくさんあると思うんですよね。

2,社論をどこまで意識する必要があるの?


イベントなどで新聞記者さんのお話を聞くと、「いや、朝日にだって保守的な記者はいるんですよ」とか「産経ですけどリベラルな人もいますよ」みたいな話が出てくるのですが、社論としてアウトプットされるものを見てると、「うーん」となってしまうんですよね。

朝日の記者の中には、「アベノミクスと対抗して庶民の生活を守るのは俺たちしかいない」みたいにガチで思ってる人もいるみたいな話も聞きますし。記者の方々は社全体の意見と自身の政治的志向の折り合いをどのようにつけているのか、みたいな話はそれなりに需要があると思います。

3.「小説 新聞社販売局」の書評


いま、一部で話題になっている、この本を元新聞記者としてレビューしてもらいたいです。

小説 新聞社販売局
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幸田 泉
講談社
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小説の形態をとっていますが、新聞社が斜陽たるゆえんのすべてが詰まった本なんですよね、これ。押し紙だけなら、まだしも販売局社員による新聞代の「立て替え」なんてものも描かれています。

新田さんは記者出身なので、販売の事情については詳しくないかもしれませんが、こうした実態を編集局の方々はどれぐらい把握しているのか、などは興味深いテーマだと思います。
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最後はいろいろと無茶振りもしましたが、「ネットで人生棒に振りかけた!」は楽しく読ませてもらいました。今後もご活躍を期待しております! =================================
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