大根おろし
大根おろしの写真は、たのっちのぶろぐから借りました

「孤独のグルメ」を筆頭に、食事に絡めたマンガって多いですよね。今週のスピリッツでも新たに「忘却のサチコ」なる食事マンガが始まっておりました。既に「くーねるまるた」という作品が連載中にも関わらずです。ことほどかように“飯を食う”シーンって、やたらと印象に残りませんか?

ちなみに、俺は大根おろしを食べる時、いつも山崎豊子の「沈まぬ太陽」の以下の部分を思い出します。
「では、こちらの大根おろしはいかがでしょう、さっぱりとしておりますから」
と進めると、八馬ははじめて箸をつけ、
「うまい、暑いところでは、これに限る」
と云いながら、取り皿に、大根おろしを山盛りとって、ずるずると、かき込んだ。
「お口に合って、ほっと致しました、バンコク産の上質の大根でございます」
竹村夫人が、説明を加えた。
「ほう、カラチには、大根がないのですか」
「はい、大根、白菜といった野菜、出張者が、仕事のづいでに買って参ります」
さすがの八馬も驚いたといった風であったが貴重な大根おろしを白米の上にかけてお代りをして、1人で平げ、楽しみにしていた駐在員たちには一掬いも残らなかった。

沈まぬ太陽(1)P378


半ば懲罰的にパキスタンのカラチに異動させられた主人公・恩地の元に、その人事のきっかけをつくった張本人である八馬が尋ねてくるシーンです。本作中でも、随一の嫌な奴である八馬ですが、この描写に憎たらしさが凝縮されていると思うんです。

みんなが楽しみにしてた貴重な大根おろしを、空気を読まずに全部食べてしまう。「あぁ!なんて嫌な奴なんだ、八馬!チキショー」と心の底から思ったものです。そして、このエピソードを思い出しながら、大根おろしを口にすると、普段よりも美味しく感じるのです。

ペヤングとキクラゲラーメンに涙する

統合失調症がやってきた」は、松本ハウスのハウス加賀谷さんの闘病記を描いた名著ですが、入院中の不便さを象徴するエピソードとして、以下のような描写があります。

病院内では、欲しいものがある時は、看護婦さんに別の病棟まで買ってきてもらう必要があります。しかし、在庫の関係で欲しい商品を具体的に注文できない。アンパンが欲しくても、蒸しパンが欲しくても“菓子パン”と書かなければならない。そんな中で唯一銘柄指定が出来るのがペヤングだというのです。

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誰が書き始めたのか分からないが、「ペヤング」と書くと必ず「ペヤングソースやきそば」が届いた。
他の商品名、例えば「スーパーカップ」と書いても、他のカップ麺が届いていた。ささやかだけど、ペヤングには小さな自由を感じていた。喫煙所なんかでみんなが集まると、
「あーシャバの味が食いたいな、何かある?」
「シャバの味は、ペヤングだな!」

「統合失調症がやってきた」


闘病記といえば、大野更紗さんの名作「困ってるひと 」があります。先日、発売された続編「シャバはつらいよ 」においても、心を鷲掴みにされる食事シーンがあります。病院を出た大野さんがキクラゲラーメンなる謎の食べ物を食すシーンです。
とりあえず、キクラゲがいっぱいのあんかけ部分をフウフウと冷ましながら、箸でつっついて口に入れてみた。キクラゲからじゅわーっと、スープがしみだした。
「うわあ、おいしい…」
病院食や、栄養調整された配達食にはない、シャバの味

「シャバはつらいよ」P122

世の中には、名言や名シーンを集めた書籍がたくさんありますが、俺が書籍編集の仕事をしていたら、古今の名作の中から食事シーンの名場面だけを集めた書籍を企画してみたいです。

上記三作品はどれも名作なので、是非手に取ってみてください。