「アイマスクをした上でプレイするサッカー」。

そんな最初は冗談だと思ってしまうような競技がブラインドサッカーだ。
正確には様々なレギュレーションがあるのだが、ルールはゴールキーパー以外は、全員アイマスクをしたフットサルだと思えば伝わりやすいだろう。パラリンピックの正式種目でもあるという。

実際にプレーする様子が想像できるだろうか。
不安げにヨタヨタとフィールドを動き回るプレーヤーの姿を想像する人が多いのではないだろうか。少なくとも自分はそうだった。
論より証拠。以下の動画を見てほしい。



「っていうか、切り返ししてるんですけど…」。
とてもじゃないが、目が見えていない人間のプレーではない。

普段、人間は情報の8割を視覚から得ていると言われているそうだ。
その視覚からの情報を遮断した状態で、ボールと敵の位置を把握し、シュート、ドリブル、パスと的確なブレーを繰り出す。こうしたプレーをするためには、どうすればいいのか。ブラインドサッカーとは、どのようなスポーツなのか、その一端を知るべく、日本ブラインドサッカー協会が行っている体験プログラム「OFF TIME」に参加してきた。

当たり前だが、“声”を出さないと話にならない


OFF TIMEは2時間弱のプログラムで、自分が参加した日は20名程度が参加していた。当然だが、ブラインドサッカーはいきなりゲームを始められるようなスポーツではない。そのため最初は目隠しをした状態に慣れるところからスタートする。

アイマスクをした状態で、血液型別にグループを作ったり、身長順に列を作ると行ったワークを行う。文字にしてしまうと、なんてことはないのだが、これは非常に難しい。まず当然だが、「A型いるよー、A型」などと声を出し、自分の存在をアピールしなければならない。その上で、A型の参加者が集まっているであろう方向におっかなびっくり足を進めて行く。「目が見えない」という状態での作業というのは、日常では全く想定していないため、ちょっとした作業でも上手くいくと達成感を覚える。

コーチングと信頼感が生命線


続いて、5人程度のグループに分かれてボールを使ったワークを行う。4人で四角形を作り、残りの1人がアイマスクをつけた状態で中心に入る。外側の4人は、 ブラインドサッカーで使用する音の出るボールを手で投げてまわす。パスをする前に、中の人間にボールをタッチしてもらう。30秒間で中の人間が、できるだけ多くボールに触れるように各チームで工夫を重ねて行く。

<イメージ図>
図3










このワークでは中の人間に対するコーチングが重要になる。周囲は、誰がボールを持っているか、次はどこになげるか、といった情報を中の人間に伝える。自分が初めて挑戦した時は、5回程度だったがワークを重ねる中で15回程度まで回数を伸ばすことができた。ただ、スタッフの方の話によると、同じワークを小学生にさせると20回は行くそうだ。

やってみるとわかるのだが、視覚情報を断った状態では素早く動けない。どれだけ速く動こうとしても、恐怖感から心理的ブレーキが掛かってしまうのだ。周囲のコーチングに対する信頼感が増すたびに、恐怖感が低減していくのだが、そうした順応力が子どもの方が高いのだろう。

企業の研修に導入されている事例も


この後、チームメイトの指示を頼りに、アイマスクをした状態でボールをトラップし、パスで戻すといったワークや、壁までの距離感をつかんで、どこまで近づけるかにチャレンジするといったワークを行った。こうしたブラインドサッカーのプログラムは、“わかりやすく”指示を出し、目的を達成させるという一連のワークの特徴から企業の研修などに活用されている事例もあるらしい。

参考
ブラインドサッカーで企業研修 仲間への信頼を醸成

確かに、「どうすれば、こちらの意図が相手に伝わるか」「どうしたら相手に思ったとおり動いてもらえるか」といったことを考える上で、これほど適した環境はないだろう。アイマスクをした状態では、人はなかなか思ったとおりに動いてくれないし、動けないのである。OFF TIMEでも各ワークの間にチームごとで、簡単な振り返りを行うのだが、体験が伴う分、座学よりも理解が深まりやすく互いに積極的に発言する姿勢が目立ったように思う。

純粋に“人間の可能性の凄み”を感じる


今回のプログラムの中で、個人的に一番驚いたのが、ワークの合間合間で行われるブラインドサッカーの現役日本代表・寺西選手のデモンストレーションだった。

ドリブル、パスを滑らかにこなすのは、なんとか理解できるのだが、驚いたのシュートだ。
スタッフが小さな三角コーンを2メートル程の間隔で置き、ゴールに見立てる。
寺西選手はゴールの位置を、スタッフがコーンを手で叩く音で把握する。
最初は2メートルほどの間隔のコーンの間を通す。これなら、なんとなくでも通るかもしれない。
スタッフがさらに間隔を縮め、50cmほどにする。すると、寺西選手は片方のコーンに当ててしまう。やはり難しいのだろう。

50cmほどの隙間を通せなかったにも関わらず、続いてスタッフは明るく「じゃあ最後は、コーンに当てて終わりましょう」といって1本のコーン置き、再び叩いて位置を知らせる。まさか当たるまいと思いながら、見ていたが、寺西選手が足を振りぬくと、ボールは見事にコーンにヒットした。

よくマンガや小説で全盲の剣客が登場するシーンがある。彼らは目が見えない分、ほかの感覚を研ぎ澄まし、目が見えてる人間以上の力を発揮する。そんな設定は散々見てきたが、目の前でその能力を見せ付けられると一味違った感動を覚えた。

こうしたワークの中で自身の聴覚であったり、空気の流れや光の加減の変化を感じる能力の高まりを認識できる。「あぁ人間の可能性ってすごいんだな。視覚情報がないからこそ感じることができるものがあるんだな」とこれほど実感できる瞬間はいままでなかった。

わずか2時間程度のプログラムなので、実際にゲームするまでには至らないが、ブラインドサッカーの魅力を味わうには十分な内容になっている。サッカーという競技の新たな側面、人間の能力の可能性を知ることが出来る内容なので、一度チャレンジしてみてはいかがだろうか。